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漫画『イノサン』『イノサンRouge』『孤高の人』 著者・坂本眞一インタビュー! 第3回 ー漫画家は、作品を作るたびに輪廻転生するー

2019年2月24日更新


繊細にして華麗、ショッキングなシーンで読者の目とハートを奪う
漫画『イノサン』『イノサンRouge』(「グランドジャンプ」で連載中)。
著者・坂本眞一さんってどんな人…!?漫画ってどう描くの?

『イノサン』1巻より。
家業である処刑人の仕事を引き継ぐことを嫌がり
結果、父からお仕置きを受ける、若き日のシャルル・サンソン

 

………前回のお話………

高校生で漫画家デビュー、しかしなんと世の中に認められるまでに
20年を要したという坂本さん。しかも大好きな仕事のはずなのに、
漫画を描いている過程は苦しいことばかりで、
おおよそ楽しいことはないという…。
漫画家って棘の道を歩く仕事のようですが…!?

 

アイデアが浮かばない…
でも火曜の午後5時が来たら…

ご自分で設計されたアトリエで
今日も仕事机に向かう坂本さん!


ーーでは作品を作る過程で一番辛いのは、いつですか?

坂本 アイデアがなかなか固まらない時は、これほどの苦痛はない、って感じです。アーティストさんが「生みの苦しみ」という表現を使いますけど、まさにそれですね。決めたけどなんかピントが合わないとか、まだなんかできるんじゃないかとか納得できなかったり。なんか降りてくるのを日々願っています。

ーーどういう時に降りてきます?

坂本 火曜の午後5時ですね(笑)。火曜が編集部にネームを渡す締め切り日、と決まっているので、追い込まれて意外にぽろっと転がり落ちてきます。結局、窮地に追い込まれた時がいいのかも…(笑)。

ーーストレスって悪いばかりではないですね(笑)。


坂本眞一と
アシスタントの仕事の分業は

ーーたくさんアシスタントさんがいらっしゃいますが、絵はどこまでご自分で描かれていますか?

坂本 昔は全部自分で描いていましたが、今はネームや構成が終わった後ペン入れするのは人物だけです。モブ(群衆)キャラもたまにスタッフさんに描いてもらうこともありますが。自分でも描きたいんですけどね。

ーー全部描いていたら間に合わないですよね。

『イノサン』2巻より。
処刑される人の後ろに並ぶ民衆達が
描き手から「モブ」と呼ばれる人々

 

坂本 『イノサン』の時代から、手描きから全てデジタルにして、仕事は速くなったのですが、それでも。人物を描いて指定すれば、スタッフさんがそれぞれ得意分野があるので、仕分けしてやってくれるんです。自然を描くのが得意な人、建物が得意な人、衣装が得意な人とかいて。

ーー建物が立ち並ぶ、18世紀の広場のシーンとか、すごいな、って思うんですけど…。建物担当の方がひとりで描かれるんですか? 写真も使わず?

坂本 そういうのは皆で一斉に取りかかります。紙は1枚だけど、デジタルだと皆で同時に描けるでしょう。窓担当、屋根担当、って感じで作っています。大工さんみたいに。基本現地で撮った写真をベースに、できる限り時代公証もして、手作業で描き直しています。

パリで自ら撮影中の坂本さん


坂本
 ただ、現在残っていない建物に関しては写真がないので、一から描き起こしになります。バスティーユ、タンプル塔、チュイルリー宮殿など。また漫画では、写真では撮れないありえないアングルもあるので、その場合はすべて手描きになります。

『イノサン』8巻より。
パリ市庁舎処刑場シーン。スタッフ総出で取り掛かって描いたもの

『イノサン』8巻より。
このパリ崩壊シーンも、スタッフ総出でほぼ手描きで描かれた


坂本 この頃、週刊誌でこれを描いていたなんて、我ながら常軌を逸していますね(笑)

ーーはい…、相当です(笑)。そういう坂本さんの突き抜けたところを、読者が楽しみにしているのも間違いありません!


華麗な衣装は、実際制作するところから!
スタッフが着てポーズを取ったところを撮影

ーーそして衣装もやたらすごいですけれど…。

坂本 衣装はまず実際に人間が着られるものを作ります。原宿でバンドマン用の衣装を買ってカスタムしたこともありますね。できあがったらスタッフさんに着てもらい、演技指導。ポージングもいい加減にはしません。ポーズが決まったところで写真を取り、パソコンに取り込みます。

ーー『孤高の人』でも装備を完璧に描いていることが話題になっていましたが、各メーカーのものを正確に描いていましたよね。でも『イノサン』は衣装制作からですか…。

坂本 頭で考えただけのものを描きたくはないんです。

作った衣装を着てポージングするスタッフの
演技をチェックする坂本さん

ーー『孤高の人』のザイルの巻き方もたいへんなことになっていましたものね。

坂本 『イノサン』でもレースの実際のしわの走りとか、うねりを見逃さず下絵を描きます。自分にとって下描きの下描きであり、大切な工程を積み重ねています。

ーー建物と同じく写真は使わないんですか? 細かな刺繡とかレースとか、見事な美しさを放っていますが…。

坂本 写真ではなく、素材を組み合わせて刺繡やレースを作り、原稿に貼付けていくんです。

小さなレースの端に焦がしを入れたもの。
まずはこういった実際のレースをパソコンに取り込む

『イノサン』6巻より。
パソコンに取り込まれたレースは
坂本マジックでより美しいレースに!

『イノサンRouge』8巻より。
レースは当時の貴族やブルジョワジーの間では
欠かせないもの!従って『イノサン』内でも
様々なレースがたくさん登場するのです!


ーーたくさんのキャラが出て、たくさんの衣装があって、大変ですね!

坂本 新しいキャラが登場すると、そのキャラのために衣装を仕立てているんです。たとえばアラン。彼は黒人の血も入っているので、南の雰囲気も醸し出したくて、ありえないけどハイビスカスも入れちゃおう、とか。キャラによって服も設定しているんです。

『イノサン』9巻より。
黒人と白人の血が流れるアラン!

 

ーー仕事場に確かに衣装が置いてありますが、絵のほうが断然ゴージャスです…。もはや別物に見えます(画力がすごいからです)!パソコンがあっても、画力がなければここまでは描けないです…。

この装備で撮影したものが……

『イノサン』2巻より。
このように変わるのです!

この木刀も…

『イノサン』1巻より。
このように真剣に変身…!

 

残酷なシーンがあるからこそ美しさにこだわり
髪の毛1本1本まで心をこめて誠心誠意描く

ーーさて美しさへのこだわりも相当だと思いますが…。人物や背景など…。

坂本 たとえば『イノサン』は処刑人が主役の漫画ですから、悲惨な光景とかがついて回ります。だからこそ美しさを大切にして、命の尊さや儚さを表現したいと考えているんです。「美」というキーワードはこの作品では支柱のひとつです。人間の生死に関わる話を描いているので、体温だとか血が流れる鼓動とか、髪の毛1本1本まで心をこめて誠心誠意描いています。

ーー出演する人達、ほぼ皆、美男美女ですよね。

坂本  処刑人には血も涙もなく、見かけも筋骨隆々で、ってイメージがありますが、その固定観念も壊したかったし。シャルル・サンソンは実際は繊細な人だったという節もあり、その真の姿を絵で表現したかったんです。

『イノサン』連載が始まった頃、
主人公のシャルル・サンソンは
ネガティブ系キャラで有名な某モデルさんに
似ている!?と話題を呼びました!


ーー『孤高の人』も出てくる山男たちも、全員華奢でお洒落で、超美形ですよね。

坂本 山男だからこそ、逆に文化系のイメージにしたんです。もちろん読者を楽しませる、宝塚的な役割もあります。

ーーはい。次々に繰り出されるイケメン登山家にときめきまくりました。

『孤高の人』1巻。
美しき登山家達の物語に関心がある方は
こちらをどうぞ…♥︎ 坂本さんの出世作です!

 

漫画家は作品を作るたびに輪廻転生する。
その繰り返し。でも常に貫いていることが…

ーーー作品を発表するたび、がらりとテーマや時代背景などが変わって驚かされますが。日本や世界の山々から、18世紀のヴェルサイユ宮殿へ…。最初、同じ人がこの作品を描いているのか、と目を疑いました(笑)。

坂本 『孤高の人』を描いている時は山道具に囲まれ、今は花や昔の服だらけですね。作品を作るたびに違う世界に身をおいて、楽しんで吸収しては、輪廻転生している感じです。漫画家ってその繰り返しなのかな? 違うものを描けるのは、作家としてすごく楽しいです。でも『イノサン』でも『孤高の人』でも筋を通しているものがあるんですよ。

ーーそれは何でしょうか?

坂本 固定観念でものを見ない。皆が見ている常識を疑ってみる。そして本質を探す、ということです。『イノサン』を描くためにいろいろ資料を探していた時も、資料の中にある歴史と本当の歴史は実は違っていたりする…、という話も聞いて。そのまま描くのは正しいのかな、って考えて。これからも漫画家としての僕のライフワークになるのかもしれないですね。

 

ーー次回は、『孤高の人』という山男が主人公の漫画を描いていた坂本さんが、なぜ18世紀のパリを舞台にした処刑人の漫画『イノサン』を描くことになったのか。その理由を語ってもらいます!

 


坂本眞一(さかもと しんいち)
1972年大阪市生まれ、91年『キース!!』でデビュー。2010年『孤高の人』で第14回文化庁メディア芸術祭漫画部門最優秀賞受賞。2016年パリ・ルーブル美術館からの招致で「ルーブル美術館BDプロジェクト」に出展。現在は『イノサン』に続き「グランドジャンプ」で『イノサンrouge』を連載中。公式サイト(試し読み可)https://youngjump.jp/innocent/ 昨年末、Apple Booksから『坂本眞一 イノサン画集G』も出版、話題に!


『イノサン』1-9巻に続き、現在『イノサンrouge』最新刊の9巻まで発売中!(集英社発行)

 

『坂本眞一 イノサン画集G』(Apple Books)

 

インタビュアー/鈴木真理子(すずき まりこ)
雑誌「KERA」「Gothic&Lolita Bible」「KERAマニアックス」の創刊編集長をつとめ、その後も「ETERNITA」「Miel」「tulle」などファッション雑誌の立ち上げを手伝う。原宿系ファッション、そして様々なカルチャーやアートが大好物!


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