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漫画『イノサン』『イノサンRouge』『孤高の人』 著者・坂本眞一インタビュー! 第2回 ー漫画家としての暗黒時代は、20年間続いたー

2019年2月17日更新

『坂本眞一 イノサン画集G』カバーイラストより

 

繊細にして華麗、ショッキングなシーンで読者の目とハートを奪う
漫画『イノサン』『イノサンRouge』(「グランドジャンプ」で連載中)。
著者・坂本眞一さんってどんな人…!?漫画ってどう描くの?

 

『イノサン』6巻 より

 

………前回のお話………
大阪に住む高校生の坂本さんは、学内一、絵がうまいのが自慢だった。卒業後の進路を決める際、漫画家になることを思いつく。「少年ジャンプ」に作品投稿・受賞し、漫画家デビューが決まり上京。手っ取り早くお金を稼ぐために江川達也さんのもとでアシスタントを始めたら、アシスタントさんは自分より上手い人ばかり…。プライドがずたずたになってしまった…。

アトリエのマイデスクで執筆中の坂本さん。
今回も興味深いお話をたっぷり語ってくださいます…!

 

自分オリジナルの絵より
売れている絵がホンモノなのかと…

ーー漫画家さんはアシスタントにつくと、先生の絵にどうしても似てしまうといいますが、坂本さんの絵は坂本オリジナルですね。

坂本 影響は受けています。江川先生は整頓された線、しっかりした筋道のある美しい線を描かれる。だから自分とは違う真反対のところにあるんです。本来の自分は、感情でペンを走らせるタイプなんです。アシスタント仕事をしている時は、本来の自分を忘れていくような感覚がありました。

ーー坂本さんは感情派!? あの正確無比な絵を見ていると、そんなことは想像もできませんでした。

坂本 はい。江川先生からだけではなく、いつもなにか、誰かに影響されてはいたと思うんですけど、本当は僕ではない誰かの漫画を描きたくはなかったんです。でも、上京してから、「少年ジャンプ」で連載をめざす競争、という流れに乗った時に、皆が喜ぶもの、受けるものを描かなきゃ駄目だと思って。それに人気が出ないと仕事が来なくなっちゃいますから。結果本来自分が持っている絵を信頼できなくなった。

 

借り物の絵を描いていた20年間は
まさに漫画家として暗黒時代だった

ーー売れている絵、売れている漫画が正義、みたいな。

坂本 そうです。今流行っている絵っていうのが本当の絵だと思ってしまって。上京して4年目で連載仕事をもらったんですけれど、10年くらいはアニメ風の借り物の絵になっていました。自分の中から出てくる絵を描いているわけではないから、描いても描いても評価されないし、キャラクターが動いてくれない。そんな暗闇の中を歩いているような暗黒時代がなんと20年も続いていました。

坂本さんが「暗黒時代に描いた作品です」と見せてくださった『一撃』という作品の原稿。
確かに今と全然違う絵ですね! でもご本人は、こういう絵も好きなんだそうです♥︎

 

ーー20年!その暗黒時代は、漫画以外のこともやってたんですか?

坂本 実際、人気がないと仕事が本当に来なくなっちゃうんですけど…。それが僕、不思議に沈まなかったんですよ。何かしら細かい仕事があって、食いつないでいけた。それで暗黒時代も漫画だけで細々と(笑)。絵以外の仕事はしたくないと思っていたので、それは良かったです。

ーー今をときめく人気の漫画家さんに、そんな時代があったなんて驚きです!

 

ここに自分の絵があった…!
自分の原点になる絵を見つけた時から再スタートして…

ーー転機が来たのはいつですか?

坂本 同じく漫画家の妻と出会って付き合い、一緒に暮らし始めた頃、ふたりで夢中になって漫画を研究したんです。それこそ友達の誘いがあっても飲みにも行かず、毎日家で。「漫画をいうものを分解して、方法論をつけていこう」って。

ーーおふたり揃って、漫画に対する情熱がすごいですね!

坂本 その時ふと自分の短編集の背表紙を見て「あれ、俺の絵ってこれなんじゃないかな」って思う絵があって。そこでやっと「自分が描けるものを描いていかなければならない」って気がついたんですね。それでもう一度原点に帰ってその絵で勝負しようって気になったんです。それが後に『孤高の人』の森文太郎や、『イノサン』のシャルル・サンソンの顔に繋がっていくんです。

ーー後に坂本さんの代表作になる漫画の主人公達ですね!

坂本 はい。その頃はまさに窮地でしたけど、人間は窮地に追いつめられた時が転機になるんですね。

これが坂本さんが「あれ、俺の絵ってこれなんじゃないかな」
と気がついた絵だそう!
手に取って見せてくださいました!

 

先ほどの単行本『ブラッディ・ソルジャー』の背表紙の絵の顔から、
『孤高の人』の森文太郎の顔が生まれる。
(『孤高の人』1巻より)

 

回を重ねる毎に、森文太郎の顔は美しさと繊細さを極めて
坂本オリジナルの絵となっていく
(『孤高の人』10巻より)

 

森文太郎の顔から
『イノサン』のシャルル・アンリ・サンソンの顔へ
(『イノサン』1巻カバーイラスト)

 

読み捨てられるような
漫画しか描いていないことに気がついて

ーー進路を決めた時と一緒ですね。そこでようやく漫画家としての暗黒時代の終わりが来たのですか?

坂本 いや、まだ。まだ最大に欠けてることがあって。自分には読者に強く伝えるものがなかったんです。絵と同じで、読者に受ける、喜ばれるということを優先していたから、読み捨てられてしまうようなものしか描いていなかった。そこに気がつくことができたのが前作の『孤高の人』なんです。描いているうちに自分の体験や感情が作品にダイレクトに吸収される瞬間があって、さらに逆に作品と僕の日常で起こることがリンクしあうようになって…。これが自分を描く、引いては自分の漫画を描くってことなのかなってわかったんです。そしてやっと自分のスタイルができた。

ーー他を模倣することをやめて、己に忠実になることによって、坂本眞一という眠れる獅子がようやく目覚め、自由に駆け巡る大舞台を得たわけですね。『孤高の人』は大ヒットして、さらに第14回文化庁メディア芸術祭漫画部門最優秀賞など各賞を受賞する他、いろんな賞にノミネートされましたものね。坂本さんの天才的な画力と、自身から発せられる感動やオリジナリティが結びついて、漫画家として大きく飛躍し認められた。

坂本 その極意を掴むまでに長い年数を掛けてしまいました。でもその時期があってからこそ、漫画を作る厳しさを知ったし、どの漫画家さんも心からリスペクトすることができるんです。人としてもこの期間があって良かったのだと、今は思っています。


漫画を描くのは、ほとんどが苦痛
描き上げた作品は正視できない

ーーでは長らく漫画家生活を送られていて、作品を作る過程でいちばん楽しいのはいつですか?

坂本 正直にいってしまえば、ほとんど苦痛です。満足いくってことが本当にないし。完成にちかづけば近づくほどもう見たくない。最後の原稿チェックとかものすごく辛くて、正視できない。なんでこんなの描いてしまったんだろう、もっとああすれば良かった、って。で、次の新しい28頁を前にして、今度こそ完璧なものを目指すぞって決意する。でまた「今回ちょっといいんじゃないか」って思い始めたら、結局最後にまた「今回も駄目」って。それの繰り返しです。単行本になっても見られないです、とにかく。

ーーええっ。目指すゴールが高すぎるのでは…。驚愕の事実です!!

坂本 でもこれを描きたいというシーンとかふっと降りてくると、それをだーっと描く。無心で。どきどき胸が高鳴るし、早くこれを発表したい、これが描ければ死んでもいいくらいの気持ちになるんです。そういう波に乗った時は、昂揚して楽しいんですけどね。

ーー新刊の『イノサンRouge』9巻には、顔がインクに塗れてしまった処刑人シャルル・サンソンのシーンがありますが、あれは衝撃的でした。

坂本 そのシーンも描きたかったシーンのひとつです。知り合いのヴィジュアル系アーティストさんから、ラストステージを顔を真っ黒に塗りつぶして立った、という話を聞いて、触発されて描いたシーンなんです。それはもう顔を出したくない、というサインなのかな?とかいろいろ考えさせられて、我が子ガブリエルを亡くした後のシャルル・サンソンはこれで表現したいと思ったんです。

顔がインク塗れになったシャルル・サンソン。このページから大胆な表現が続く!
是非、単行本で読んでみてね!(『イノサンRouge』9巻より)

 

全体のストーリーからではなく
描きたいシーンを繋いでいくスタイル

ーーするとお話作りはどうされているのですか?

坂本 僕は、自分が今描きたいと思うシーンや、表現したい気持ちを優先して、作品を作るんです。ストーリーはその描きたいシーンを伝えるために、組み立て、紡いでいく感じです。先に全体の流れを考えるのではない。だから伝えたいひとつの場面のために、あとのシーンがあるという感じなんです。伝えたいことのためにコマを追っていく…。僕にとっては、漫画の正体ってこれではないかと。

ーーなるほど。坂本作品には独特のうねりがあるように感じていたのですが、そんな制作方法があったからなんですね。

 

ーー次回は漫画を制作する過程で一番辛い時について、作品ごとにがらりと雰囲気が変わることなどなどについて、秘密を探ります!また『イノサン』の登場人物が着用するゴージャスな衣装については、漫画になるまでを画像で紹介します!是非見てくださいね!

 


坂本眞一(さかもと しんいち)
1972年大阪市生まれ、91年『キース!!』でデビュー。2010年『孤高の人』で第14回文化庁メディア芸術祭漫画部門最優秀賞受賞。2016年パリ・ルーブル美術館からの招致で「ルーブル美術館BDプロジェクト」に出展。現在は『イノサン』に続き「グランドジャンプ」で『イノサンrouge』を連載中。公式サイト(試し読み可)https://youngjump.jp/innocent/
昨年末、Apple Booksから『坂本眞一 イノサン画集G』も出版、話題に!

 

『イノサン』1-9巻に続き、現在『イノサンrouge』最新刊の9巻まで発売中!(集英社発行)

 

『坂本眞一 イノサン画集G』(Apple Books)

 

 

インタビュアー/鈴木真理子(すずき まりこ)
雑誌「KERA」「Gothic&Lolita Bible」「KERAマニアックス」の創刊編集長をつとめ、その後も「ETERNITA」「Miel」「tulle」などファッション雑誌の立ち上げを手伝う。原宿系ファッション、そして様々なカルチャーやアートが大好物!


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