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漫画『イノサン』『イノサンRouge』『孤高の人』 著者・坂本眞一インタビュー! 第4回 ー登山家より、さらに過酷な運命を背負う、処刑人を描きたかったー

2019年3月3日更新

 

『イノサンRouge』7巻より
処刑一家に生まれたマリー・ジョセフ・サンソンの幼少時代

 


繊細にして華麗ショッキングなシーンで読者の目とハートを奪う
漫画『イノサン』『イノサンRouge』(「グランドジャンプ」で連載中)。
著者・坂本眞一さんってどんな人…!? そして漫画ってどう作られていくの?

 

 

………前回のお話………

坂本さんの作品を見ていると、毎回全くがらりとテイスト違いの作品を発表しているかのよう。坂本さん自身「新しい作品を手掛けるたびに様々なことを調べ、学び吸収するので、漫画家として輪廻転生するような気がしているんです」と話してくれました!今回はなぜ18世紀のフランス革命に舞台になる『イノサン』という全く違うテーマで描くことになったなのかを伺います!

今日は坂本さんの仕事机の後ろにある書棚を見ながら
お話していただきました!

 

あまりに辛い処刑人の人生を描くのは
山男よりさらに過酷な運命を背負った人を描きたかったから

ーーそもそもなぜ『イノサン』を描くことになったのですか?

坂本 ルーブル美術館に出展することがあって、フランスのことをいろいろ調べたんです。その時処刑人サンソンのことを知りました。

ーールーブルに出展!たいへんな名誉ですね!

坂本作品のマリー・アントワネットは
『イノサン』を描く前からすでに生まれていたわけですね…!
バックはルーブル美術館!

ルーブルに出展のため、パリに赴いた坂本さん。
2011年、バックは凱旋門。
その後は『イノサン』取材のために再度パリを訪れている


坂本 当時『孤高の人』で自ら望んで過酷な山を登る男達を描いていたのですが、サンソンは過酷な運命を背負わされた処刑人の家に生まれた男です。職業選択の自由なんてある時代ではない。自分の意思ではどうにもならない。ある意味登山家よりレベルの高い過酷な人生を送らなくてはならない…。

ーーなるほど。『孤高の人』ではクライミングの最中で亡くなった方や、生存することができたものの体の一部を欠損した人の姿も描かれています。が、それは本人の覚悟があってこそのもの。較べる対象ではないにしろ、18世紀の処刑人は家系で代々受け継がれていくもので、皆に忌み嫌われながら罪人を痛めつけた上、死に至らせなければならない。

坂本 そう。違う次元の過酷な運命を見てしまったわけです。そしたらもう彼を描くしかないって気持ちになったんです。

『孤高の人』16巻より。
自らの意思で、難攻不落とされる山に挑む、『孤高の人』主人公・森文太郎。
生死の分かれ目に立って歩く、その先に待っていた彼の運命とは…!

『イノサン』1巻より。
父から子へ。人を痛めつけ、殺める仕事を
引き継いでいくしかない、サンソン一家

『イノサン』2巻より。
処刑に立ち向かったものの、罪悪感に苛まれ
苦悩するシャルル・サンソンの姿



ーー昔「KERA」の姉妹雑誌「KERAマニアックス!」の「QUEEN OF LOLITA マリー・アントワネット」という特集を組み、処刑台についてほんの少しですが紹介したことがあったんです。処刑人の家の生まれの人は本当に辛い人生を送っていますね。庶民に較べ断然実入りはよく、そこそこ贅沢はできるようなのですが、皆に嫌われて、学校もまともに通うことができなかったようです。

2007年発行「KERAマニアックス」7・8SPECIAL

アントワネットの生涯について掘り下げました!

 

史実は確かめていっても、そのままには描かない
『イノサン』のBGMはクラシックではなく、ロックだと思っているから

ーーー『イノサン』シリーズは歴史検証をきちんとされて描いているのがわかって、安心します。

坂本 フランス語ひとつとっても、テキトウには書けないので。わからないことがあると、担当さんから専門の方に投げてもらっています。

坂本さんの仕事机の後ろにある書棚の一部!
わからないことはテキトウに描かず、ちゃんと調べて描きます!

医学の本ももちろん・・・

処刑に関する書物!おもしろそう・・(ゴクリ)

 

ーーでも決して、史実を追求してそのまま描く、というわけではないですよね。

坂本 軸はぶれないようにしながら、遊び心を入れています。結局、僕が今発信している相手は現代の読者なので。ヴェルサイユ宮殿が舞台でも、音楽はクラシックではなくてロックが流れているような。この作品ではそういうことをやってみたかった。

ーーソフィア・コッポラ監督の映画「マリー・アントワネット」の中で、一瞬、ドレスの裾からスニーカーが見えるシーンがありますよね。

坂本 コンバースですよね! 僕、この映画、大好きなんです!あと、SNSにもヒントをもらって。SNSって時間軸が存在していない感覚を覚えるんですよ。半年前のことも、たった今起きたことも同時に上がってきたりするでしょう。これも漫画の世界でできるのでは、と思って。『イノサン』では読者がわかりにくくならない程度に、時間軸をずらした描き方で表現しています。

ーー史実を把握しながら、現代ならでは、その作家ならではの遊びを入れていくのは楽しいですね。

『イノサンRouge』6巻より。
パリの処刑一家サンソンの面々がずらり登場のシーン!

『イノサンRouge』6巻より。
クールな処刑人メンバー!このBGMは間違いなく
クラシックではなく、ロックですね!しびれます!

 

坂本 フランス革命のことは歴史に詳しい方はよく知っているし、だったら逆にそのまま描くより、自分が描きたいことを優先していいのではと。僕自身が今生活の中で考えていること、感じいていることを漫画の中で落とし込んでいます。昨日体験したイヤなことも描く。そういうスタイルを取っています。

ーーそのままを描くのは抵抗がありますか?

坂本 史実や原案そのままには、どうしても描けないですね。自由にやらせてもらっています。わがままだと思うのですが、自分を描かないと、自分の作品として成り立たないので。

 

こちらが原案になっている『死刑執行人サンソン』(安達正勝著・集英社新書)。
『イノサン』を読んだ人がこちらも読んでいますが、どちらも面白い!と好評!!

 

自分の彼女のことを呼び捨てになんてしない
自分と妻の関係をそのまま描いた『孤高の人』

ーー漫画『孤高の人』は原作にあたる小説がありましたが、だいぶ違う作品になっていましたね。どちらも素晴らしい作品だと思いますが、坂本さんの『孤高の人』は後半、主人公の山男「文太郎」の恋人になる「花ちゃん」が登場してから、猛烈に胸に迫るものがあって、なんてすごい作品なんだろうと思いました。

坂本 文太郎と花ちゃんの関係は、僕と妻の関係をそのまま描いていた感じです。

ーーそうなんですか。彼女であり、妻にもなった花ちゃんを、主人公は「花」と呼び捨てにしないで「花ちゃん」って呼んでいるのもすごく好きです。呼び捨てにすると、時に所有感を感じさせますけど、「ちゃん」をつけると、女性を尊重している感じが伝わりますね。

坂本 それも僕が妻の名前を呼ぶ時、呼び捨てにしないからなんです。「タイトルに『孤高』がついているのに、なぜ結婚しているの?」なんて突っ込まれることもありましたけど、2人でいるから1人で何かと向かい合っていもて大丈夫だよ、ってことを言いたかったんです。

ーーふだん見落としそうなことですけれど、事実から生まれたリアルさが読者の心を掴んだわけですね。

『孤高の人』12巻より。
ほぼ完全に孤立無援の人生を送る主人公・森文太郎が
運命の人「花ちゃん」と出会い、恋愛に落ち、挙式へ。
(しかしその記念写真は不吉なものに…)

 

マリー・ジョセフ・サンソンは、坂本オリジナルキャラ
現代のジェンダー問題を取り上げる存在

ーーふと『イノサン』中のほぼ架空の人物と思われるマリー・ジョセフ・サンソンはダークサイド版のオスカル(漫画『ベルサイユのばら』の主人公)ではと思ってしまいました。全く違う作品ですけれど。『ベルサイユのばら』も歴史上の人物の中にほぼただひとり、架空の人物としてオスカルが入れられていますから。

本棚の一番上に、恭しく池田理代子さんの
1976年発行の『ベルサイユのばら』ボックスセットが飾られていました…!

 

坂本 実は『イノサン』を描き始めた頃、第一子が生まれて、女の子だったんです。そういったこともあってジェンダー問題が気になってきて、ジェンダーに関する問題も提起したかったので、マリー・ジョセフ・サンソンを登場させたんです。女性ながら、男性の服を着る。女性ながら、当時ならありえなかった処刑人という職業を本人の意思で勝ち得るという…。彼女に関しては、特に史実では何も残っていないので、99.99%オリジナルのキャラといってもいいと思います。マリーの登場とジェンダー問題の提起も原因なのかな?今、僕の読者の8割が今、女性みたいなんです。

『イノサン』5巻より。
女だてらに自ら処刑人になることを選択。
男女の壁を取払いながら生きていく、最高に
クールなキャラ、マリー・ジョセフ・サンソン



ーー次回は、最近はiPadを使って執筆もする坂本さんの、手描き原稿からデジタルに移行した際のお話ほか、最新刊の『イノサンRouge』9巻や、Apple Booksから発売された画集『坂本眞一 イノサン画集G』についてなどのお話を伺います!

 


坂本眞一(さかもと しんいち)
1972年大阪市生まれ、91年『キース!!』でデビュー。2010年『孤高の人』で第14回文化庁メディア芸術祭漫画部門最優秀賞受賞。2016年パリ・ルーブル美術館からの招致で「ルーブル美術館BDプロジェクト」に出展。現在は『イノサン』に続き「グランドジャンプ」で『イノサンrouge』を連載中。公式サイト(試し読み可)https://youngjump.jp/innocent/ 昨年末、Apple Booksから『坂本眞一 イノサン画集G』も出版、話題に!


『イノサン』1-9巻に続き、現在『イノサンrouge』最新刊の9巻まで発売中!(集英社発行)

 

『坂本眞一 イノサン画集G』(Apple Books)

 

インタビュアー/鈴木真理子(すずき まりこ)
雑誌「KERA」「Gothic&Lolita Bible」「KERAマニアックス」の創刊編集長をつとめ、その後も「ETERNITA」「Miel」「tulle」などファッション雑誌の立ち上げを手伝う。原宿系ファッション、そして様々なカルチャーやアートが大好物!


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